ヒカルが住んでいる島に来たポケモントレーナーはまさにVIP待遇、いやそれ以上の歓迎を受け、まるで超有名人の用に扱われる。
が、シンオウ地方からトレーナーが来るその日、島民は皆トレーナーを一目見ようと港に押しかけているのに、ヒカルだけは森の中にいた。
「みんな〜!!来たよ〜!!」
ヒカルは森のポケモンにそう声をかける。
すると、森の奥からポケモンが近づいて来る。
「おはよう、コリンク。」
「リンク♪」
その頃、島に向かっているある船に一人の男の子が乗っていた。
彼の名前はコウキ。ナナカマド博士の手伝いでポケモン図鑑完成を目指しているポケモントレーナーだ。
そして、島民を騒がしている、「島に来るポケモントレーナー」の張本人である。
「兄ちゃんよ、あっちの奴らはポケモントレーナーをヒーロー見たいに思ってるから、兄ちゃんは向こうで凄い人気者だぜ。」
「あんまり人混みは得意じゃないんですけど。」
船長さんの情報にコウキは苦笑いで答える。
「兄ちゃん、見えてきたぜ。」
船はゆっくりと港に接岸する。
辺りにはおびただしい数の人、人、人。
「これじゃあ、セレビィが住む森まで着くのに…一苦労だな…」
コウキはもう苦笑いすら出来なかった。
…あちこちに引っかかって、結局コウキがセレビィの森に到着したのは正午過ぎだった。
目の前に湖が広がっている。
さすがに森の中にまでは島民は入ってこない。
ここの島の人が野生のポケモンとこの森を恐れているのは本当らしいな、とコウキが思ったその時、
ドシン!!
音を立てて人間が降ってきた。
すると、茂みからコリンクが出てきてその人間…少年の元に駆け寄る。
「イタタタ…」
「君…誰?」
「ボクはヒカル。モモンの実を取ろうとしたら、足を滑らせちゃって…」
確かに二人の真上にはモモンの木があり、モモンの実がなっている。
「もしかして、あなたがポケモントレーナー?」
「え…そうだけど…君は何でここにいるの?」
ヒカルは今までのことを全て話した。
「ボク、ポケモンたちと一緒に旅をしたいんだけど、両親や周りの人が許してくれないし…」
「そっか…」
二人は湖のほとりに座っていた。しばらくの沈黙。
「…あ、そうだ。ポケモントレーナーさん、あなたの名前は?」
「コウキ。」
「コウキさんか…」
「呼び捨てとため口でいいよ。年も近いんだしね。
そうだ、ボク、この森にセレビィってポケモンに会いに来たんだけど、この辺りで祠があるのを知らない?」
「祠なら…この先にあるけど…案内しようか?」
「じゃあ、お願いするよ。」
コリンクを抱きかかえ、森を奥へと進むヒカル。 その後をコウキがついていく。
「ここだよ。」
開けた円形広場の中心に祠が立っている。なんとも言えない神秘的な力を感じる。
「ここか…よし、じゃあ早速。」
コウキはバックからポケモン図鑑とオカリナのような笛を取り出す。
「これは、時間の笛って言うんだけど、この笛をセレビィが住む森の祠で吹くと、セレビィに会えるっていうんだ。
じゃあ、吹いてみるよ。」
清らかな音色が辺り一体に広がる。それに共鳴するように祠が光り、…そして一匹のポケモンが舞い降りる。
「キミが…セレビィか。」
「……セレビィ。」
「君はヒカルだね?」
「えっ?」
「ボクのテレパシー能力で君たちに直接語りかけてる。ボクはこの森を守っているポケモン、セレビィ。
君たちを歓迎するよ。ボクらはめったに人間を信頼はしない。人間はこの森を壊そうとするから…」
そうか、開発工事の時に作業車を消したのはセレビィだったのか、とヒカルは思った。
「ただ、君たちは例外。森に敵意を持っていないからね。
特にヒカルは怪我をしたコリンクを助けてくれたし…ねえ、ヒカルはポケモントレーナーになりたいんでしょ?」
「う、うん…」
「だったら決まり!!ボクは君の手持ちになる!!僕も外の世界に行ってみたいし!!うん、これって良い考え!!」
幻のポケモンってこんなにノリが軽いのか…コウキは呆れていた。
「でも、君の役割は?森を守ってなくていいの?」
「別にノープロブレムだよ♪」
「えっと、じゃあ…」
ヒカルはコウキの方を見る。
「ゲットするかどうかは自分で決めなよ。他人がどうこう言える問題じゃないし。」
そう言って、コウキは何個かモンスターボールを手渡す。
「じゃあ…一緒に頑張ろ、セレビィ。」
ヒカルはモンスターボールをセレビィにそっと当てる。
モンスターボールはヒカルの手の中で何回かもぞもぞと動き、止まる。
「よろしくね、セレビィ。」
「良かったな、ヒカル。」
その時、ヒカルが左手に抱いていたコリンクが、残りのモンスターボールの一つに自分から飛び込んだ。
「コリンク…」
「きっと、ヒカルと一緒に行きたかったんでしょ。さて、セレビィにも会えたし、そろそろ町に戻るかな。」
「どこに泊まるの?」
「まだ決めてないよ。まあ、こんな綺麗な森だから、野宿でもいいんだけどさ。」
「じゃあ、家に泊まってきなよ。
ポケモントレーナーが泊まるって言えば、家の両親も舞い上がって喜ぶはずだから、駄目って言われるわけないし。」
「そうだな…じゃあ、お言葉に甘えるとしようかな。」
二人は町に戻った。
と言っても、島民に気づかれると色々厄介だから、ムクホークの「そらをとぶ」でヒカルの家…いや、豪邸に到着。
「こ…これがヒカルの家?」
「うん。家は先祖代々炭鉱の管理者で、島の有力者なんだ。」
「へえ…凄いん…」
「全然凄くなんかない!!」
ヒカルが大声で怒鳴った。コウキはビクッとした。
「…ごめん。でも、開発工事をしようとしたり、島中に野生のポケモンを恐れさせる雰囲気を作ったのはボクのお爺さんやお父さんなんだ。
だから…ボクはお父さんが嫌いだ。」
「そっか…」
しばらく痛いような沈黙の時間が過ぎた。
「コウキ、ボク、この島を出ていくよ。」
「!!」
「明日シンオウ本土に帰るとき、ボクも一緒に連れて行ってくれない?お願い!!」
「…分かったよ。」
二人はヒカルの家の豪邸に入っていった。
勿論、コウキは歓迎され、ヒカルの隣の部屋に一晩泊まることになった。
そして、コウキとヒカルが話し合った結果、ヒカルは明日の朝4時に先に船に乗り込むと決まった。
この時間なら住人の目にもつかない。コウキがその時間に船を手配すると言う。
そして、翌日の朝を迎えた。
ヒカルはこの日の為に自分で作った服に着替える。
真っ白なシャツの端にモンスターボールのマーク。
シャツと同じ模様の真っ赤なキャップに、青い長ズボン。
そしてウエストポーチ。
「さあ、行くよ!!」
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